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十和田"私小説" 春の章 夏の章 秋

  十和田への旅は、息子からのプレゼント。わたしたちの25回目の結婚記念日のお祝いにと、アルバイト代をはたいて、湖畔の宿を予約してくれた。
十月生まれの息子は、来週で二十三歳になる。早いものだ。お互い歳をとるはずだねと、車の中でふたり、笑いあった。

十和田は秋たけなわ。空はどこまでも高く、晴れ晴れとしていた。
複雑に色彩が重なる紅葉の山と、湖の深い青とのコントラスト。こらはもう感動的だ。
秋って、やっぱり特別な季節ね。わたしはそう確信する。
秋の風景を愛でる心こそが、日本人の美意識の原点であるという人もいるそうだけど、秋は、いちばん日本らしい美しさを持つ季節かもしれない。
もちろん、春の桜も大好きだけれど、その華やかさとはまた違った、どこか切なく懐かしい響きで心に染みてくる。
 

   

ちょっと素敵な秋の午後。

じっとしているのがなんだかもったいないような気がして、宿に荷物を降ろした私たちは、散歩にでかけた。
真新しいスケッチブックを片手に紅葉狩り。意気込んで用意した60色の色鉛筆だけど、この絶妙の色彩のハーモニーを写しとるには、私の腕は未熟すぎたみたい。あきらめて、スケッチブックを閉じる私を、あなたは笑って見てた。
ねえ、知ってる? 紅葉って一晩でいっぺんに散っちゃうんだって。降りそそぐ紅葉の雨。素敵ね。 やわらかく陽が差し込む十月の森に会話が途切れると、栗や椎の実が落ちる音が聴こえてくる。 静かに静かに、風が吹いてた。

前略。秋の十和田より。

前略
秋の十和田湖は、想像してたより、ずっとずっと素敵でした。 きれいな景色をいっぱいみて、きれいな風にいっぱい吹かれて、お父さんとふたりで、いっぱい歩いて、ちょっぴり話をしました。 こんなに楽しい時間は久しぶりです。素敵な旅をありがとう。 わたしたちは、あなたに逢えて、とても幸せです。

早々

秋の十和田から、息子への手紙。
紅葉をいちまい封筒にいれて。
 

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